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2024年05月03日
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tiny sweetサンプル

2004年01月07日
2011/01/09
CC大阪82にて発行予定
tiny sweetサンプルです。中盤より。
 桜の花がほろほろと散っていく季節。桃色の花弁は大半は枝から振り落とされ、萌えいずる緑の若々しさに目を細める頃。
「たっだいまー!」
 勢いよく玄関から飛び込んできたのは小さな嵐だった。
 ランドセルをがっちゃがっちゃと揺らしながら居間に駆け込んでくる。
「おかえり」
「ただいま!」
 もう一度言ってしがみついて、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。まるで犬のようで、特大の尻尾が振り回されていないのが不思議なくらいだ。
「ほら、手を洗ってきなさい」
「はあい。アーチャー! おやつはなーにー」
「お前の好きなプリンだ」
「やったー!」
 どたばたと足音を鳴らしながら走っていく。廊下は走るなと何度言えばわかるのだろう。部屋にランドセルと上着を片してから今度は洗面所に一直線。プリンの歌など自作して口ずさんでいる。

 今年の春、転入生という形で子供は小学校に入学した。
 事前に調べたところ一般常識に欠けるが、外見年齢にふさわしい程度の知能を備え身体能力も昼間であればほかの児童と変わらない程度であり、普通の子供たちと混じって行動しても何の問題も無いことがわかった。冬木の管理者のお墨付きだ。これで大手を振って昼間の街を歩けるというもの。
 穂群原学園小等部。私学であるこの学園は幼年から高校までエスカレーター式の一貫教育学校だ。編入の際にうけた試験にも危なげなく通過。晴れて春から小学三年生となった。
 黒い革のつややかなランドセルはなんと教会に住むシスターからの贈り物だった。
 教会と子供、吸血鬼とは相容れぬ存在だが(なんせ発見即排除が基本だ)このシスターは何より変わった存在で刈り取るべき存在を容認するどころか子供を大いに気に入ったようで、うきうきと子供をつれて新都にでたあげくランドセルとそのた筆記用具一そろいを買い与えた。
「ありがとう」
 と言った子供の笑顔を見て薄ら笑みを浮かべたのには心底ぞっとしたが。外見は敬虔な信徒を装っているがこれは紛れも無くかの神父の娘だ。似て欲しくなかったところを強烈に引き継いでいる。
 影で何度ペドフィリアとののしられたことか。
 まったく持って失敬である。

 蒸しあがった後冷蔵庫で冷やしていたプリンを取り出して、スプレーから生クリームを吐き出して器に添える。ちょこんと缶詰のさくらんぼを添えてやれば出来上がりだ。己の分にはほろ苦いカラメルをたらして出来上がり。子供には暖かなミルクを、自分にはコーヒーを淹れてテーブルに並べた。
「なあなあアーチャー! 今日な!俺な!」
 洗面所から急いで戻ってきたはテーブルに着くなりスプーンを握って一口食べる。じいんと甘さをかみ締めながら飲み込む姿。よっぽどうまいのだろうきらきらと目を輝かせてる。
 こんなものなど、子供にとっては栄養のひとかけらにもならないはずなのに。しかし美味いという感覚は、与えられる感動には違いは無いのだろう。子供は己の作るものをいつもうまそうに全部平らげる。そうしながら今日あったことなど事細かに、時に膨らまして聞かせてくるのだ。
 今日は算数のテストで一番を取った。リレーでこけた。隣の席のナントカ君とちょっとけんかした。
 日々子供が語る言葉にひとつとして同じものは無く、すべてが彼にとって新しい。
「そうか」
 頷いてやればまた顔を輝かせて次の話題に移っていく。
 この時間が己にとって愛おしかった。
 子を持つことは永遠に無い己にとってまるで本当の子供のような。
(いくつのときの子供か)
 苦笑を禁じえない。
「なあアーチャー、今度遠足があるんだ!」
「よかったな」
「うん、すごく楽しみなんだ! おっきいお弁当作ってくれよ! あ、あとおやつ買いに行かなくちゃ」
 バナナはおやつに入るのだろうか。あとで遠足のしおりをよく読んでおかなければ。
 ふむ、冷えてもおいしいおかずというのは何かあっただろうか。脳内のレシピを検索しつつ、ふっくらした頬についた生クリームを指でぬぐってやった。知らず指を口元に持っていってぺろりと舐める。甘い味が広がった。
「あ、俺のクリーム」
「意地汚いことを言うな」
 それとも指をお前の口の中に突っ込めばよかったか、と考えてすぐに打ち消した。
「でも減った。俺のなのに」
 ぶりぶりと口を尖らせて起こっている、まったくたかがほんの少しのクリームで。
「ではこっちはどうだ」
 目の前のガラス容器の中身をひとすくい。カラメルのたっぷりかかったプリンを口元に運んでやるとためらいも無くぱくりと食べた。まるで雛にえさを与えているようだ。しかし、まだカラメルは早かったのかしかめっ面に変わる。
「にがい」
「子供には早すぎたか」
「こ、子供って言うな!」


*


ペドって言われてもしょうがない。
糖度高めでお送りします。
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